私小説 「実録YGS」
 

Again &…その2








1976年 秋の事










1年生の僕には畏れ多くて近より難かった芳賀さんが自ら











わざわざ製作中のレコードの事を説明してくれた











「レコーディングの費用はみんなでバイトしたりして出しあったんだよ」











僕らが「出来たら僕ら是非聞きたいんで、売って下さい!」と言うと











「それがね…実はレコーディングは











九割がた終わって、あとはミキシングだけ…ってところまで来てたんだけど











スタジオのスタッフの手違いで











録音した8トラックのオープンリールテープを











全部、消してしまったんだ」











「ええ〜」僕はそれを聞いて驚いた











消されてしまった録音の中には










ポケットの石渡さんがレコードの為に










WeatherShopのおケイさんが歌った










「愛のぬくもり」も入っていたそうだ。










芳賀さんは言った。










「もちろん、無料で、もう一度録音させてくれる事になってるんだけど










一からやり直しなんだ。










みんな忙しくてなかなか時間がとれなくてね…










出来あがったら、みんなにくばるからさ」











3年生になるとゼミなどで忙しくなる










レコーディングに参加したグループのメンバー










男性は










工学部の人が多かった











工学部は3年生以降は










研究室に入るので忙しいのだ(普通は)










計画されたのは、僕らが入学する前










まだ芳賀さんが2年生の時










完成したのは










1978年











芳賀さんが卒業まじかの時だった

解説









…………………











かたつむりの「言葉しかない」という曲は










音楽学校に進んだ芳賀さんの友人に










アレンジを依頼していて










無茶苦茶難しい編曲になっていた










楽譜を見せてもらったが(見てもわかんないけど)









いっぱい音符が並んでた(ったりめーだ)










ベースのアレンジもかなり難しくて










芳賀さんは遠藤さんに










「弾いてくれない?」と頼んだそうだが










厄介過ぎるので、










遠藤さんは「丁重にお断りした…」と言っていた










芳賀さんはタイトルをいつも「言葉」と言っていたが










正しくは「言葉しかない」である。










コーラスやギターのアレンジが格好いい









…………………………










WeatherShopの曲はどの曲も良いが










おケイさんと森さんの合作の「無題」はギターのアレンジや









遠藤さんのベースラン、コーラスがとてもかっこいい。










当時1年生だった僕らは、










この曲をみんなコピーしていた










…………………………











完成したアルバムのタイトルは










「Again, And … 」だった。










残念ながらおケイさんの歌う











石渡さん作曲の「愛のぬくもり」収録されていなかったが









すばらしいできばえのレコードだった。




WeatherShop 「♫ついておいでよ」「♩無題

WS








竹とんぼ「♫天使のセレナーデ

竹








ポケット「♫LOVE」「♩愛のぬくもり

ぽ









かたつむり「♫言葉しかない

かたつ












終わり






僕の庭







「この三番目の「君と〜」のハモが







「デミニッシュ」っていうコードで、







ハモるのが結構ムツカしいんだよね」と海野さんが








タバコを吹かしながら言った。









僕は









「デミニッシュって、あのギターフレット押さえる時に


ディミニッシュコード








指がつりそうになるコードですよね」言った。









「ん、そうそう、四本指で交互にフレットを押さえる奴」









と海野さんは









ギターのフレットを押さえながら言った









僕と穂川くんと









そしてマーちゃんは










グループメンバーのアッチャンが









愛の三色すみれの練習を見学してると聞いて












「愛の三色すみれ」の練習はめったに見れないので、









一緒に見学しにやって来たのだった。










三色すみれは練習の合間の休憩中だった。










僕はギターの師匠である小野さんに









「この間教えてもらった、君と歩いてみたくて、の








イントロが途中まで出来るようになりましたよ」と言った。










小野さんは、









「わかったわかった…最後までできるようになったら聞かせて。」









そう僕に茨城のイントネーションで言ってから










「さあ、もう一回やってみよ。」と









三色すみれの他の二人に声をかけ、









デミニッシュのハモがある「♫君と」を歌いはじめた。









綺麗なハーモニーだった。









……………………………










1976年










僕らがYGSに入った頃









YGSには









ブルーグラスの「リバティストリングスバンド」









「竹とんぼ」「ツーバイツー」








「かたつむり」









「ポケット」「ウェザーショップ」








「ぺんぺん草(EZAK)」『ブーフーウー」








そして「愛の三色すみれ」という先輩のバンドがあった。


愛の三色すみれ









……………………………










「愛の三色すみれ」は








当時の活躍していた花の中3トリオの一人








桜田淳子のヒット曲「♩三色すみれ」から








とったグループ名であった










三人組フォークグループ「愛の三色すみれ」は、









いったいいつ練習してるんだろう…












というくらい、めったに練習しないのだった。










特に海野さんは









324教室でギターを弾いているのを









ほとんど見かけないのだが、









たま〜〜に弾いているのを聞くと、









とても上手だった。









愛の三色すみれでは









ハーモニカ(ブルースハープ)

ブルースハープ









ボトルネック

ボトルネック








ボンゴ

ボンゴ








などを担当し、









器用にこなしていた。









笑うと奥歯の金歯がキラリと光る海野さんは、









素敵なオリジナルの曲も作っていた。



♫白い風に乗って








……………………………










小野さん以外の二人は雀荘で会う事の方が








多かったかも知れない。

マージャン








僕がブイで麻雀をしてると、









先に終了した上出(曽谷 )さんが、よく後ろに来て









「ちゃうちゃう、その牌をきったらあかん。」









「そんな考えとらんでええから、早よ、ツモって来い」と言って









指導してくれた。









遂に…上達することはなかったが…








僕は









そんな優しい先輩達








小野さん、上出(曽谷 )さん、海野さんが唄う









♫僕の庭」の絶妙なハーモニーが好きだった。









おしまい


花言葉




僕はYGSに入る前から











古井戸という

古井戸










フォークグループを知っていた












高校2年の夏には













オフクロの郷里の広島に行った時に













従姉と一緒に












フォークコンサートで古井戸の生演奏も見ていた













しかし、特別にファンという訳でもなく













♩ちどり足」や「♩さなえちゃん」を唄うグループという












印象しかなかった













広島のコンサートでは確か











♩コーヒーサイフォン」という唄を歌っていた。











嶋脇くんは八戸では













古井戸のコピーをやっていたと…話には聞いていたが













1年生の間は、ひとりで、吉田拓郎や加川良などを演っていた













学祭でも田島くんと田代さんと田島屋などという













半分コミックバンドの乗りで













♩三億円事件の歌」などをやっていた













それが2年生になり













小岸さんと別れた(男女関係の別れではない)花田さんと組んだ













最初は花田さんが













嶋脇をサポートするといった感じだったかもしれないが













二人で古井戸を演りはじめた














花田さんのギターは














チャボのリードギターのコピーではなく














まったく独自のリードギターだった















グループ名は安岡くんがつけたらしいが…














一銭見世屋になった














僕は古井戸のファンというより













一銭見世屋の歌う古井戸のファンになった














初期の一銭見世屋の















レパートリーで













必ず最後に演るナンバー














「花言葉」が…














僕は特に好きで














「僕の選んだ花言葉ァ…」ところで半音あがるあたりが










ジンとくるのである。












僕は2年生のコンサートの時に


一銭















照明のスタッフを担当していた

simawaki













このコンサートの一銭見世屋の曲目は












♩年の瀬

♩叙情詩

♩♩らびんすぷんふる

そして、最後は、いつもの

花言葉 だった














僕はこのとき












嶋脇の歌う「♩花言葉」を聴いて













泣いた














あとにも先にも














YGSの他のグループの演奏を聴いて泣いたのは















この時だけである











おしまい


ひゃ・かんざ・さん






今はそんな質問をする奴はいないが、











昔は、よく「お前は、ローリングストーンズ派?ビートルズ派?」












などという質問をよくされた。












僕の答えはいつも、「ビートルズ派」だった。
(勿論ストーンズも好きだが…)












ビートルズは広島の従姉が大好きで












彼女はビートルズの最初の映画












「A Hard Day's Night」
(「邦題ヤアヤアヤア、ビートルズがやってくる」…なんちゅうタイトルぢゃ)














を10回観に行ったのだが、












僕は彼女から借りた赤い(超レアもん)LPレコードで












Can't Buy Me LoveやEleanor Rigbyなどを聴いていた。












Girl」の途中の












「すーっ」と息を吸い込む音を聴いた時には、












その斬新さに「こ、これは何だ?」と、ぶったまげたものだった。











………………………………………












アビィロードを初めて聴いたのは中学の時で












友達の家のコンポステレオだった。












友人はビートルズの最後のアルバムは「LET IT BE」じゃなく












実は発売日が先の、この「アビィロード」なんだ、と

アビィロード











ウンチクを語ってくれた












(その友達とは中学から高校・予備校・大学と11年間一緒の学校に通い












ゼネラル警備というバイトも一緒にやった)












LPレコードのB面が全てつながった












アビィロードにはずいぶんびっくりしたものだった












………………………………………













高校生の頃、ヤングギターとガッツとゆ〜ギター雑誌があって、












当時のギターキッズなら、まず間違いなく一度は読んだと思うが、












僕はちょっと後発のヤングセンスや












ライトミュージックマガジンなどを良く買って読んでいた。












そのヤングセンスに

ヤングセンス











アビィロードの中のHere Comes The Sunのタブ譜が載っていた。












僕はヤングセンスの「初級ギター講座」などで












「よしだたくろう・イメージの歌風ストローク」と












「もとまろ・サルビアな花風アルペジオ」などは












できるようになっていたが、











クロスピッキングが必要なこのタブ譜がまったく理解不能だった。











そもそもクロスピッキングって何?というレベルだった。












そんな状態で大学に進学する












入学したての1976年のある春の良く晴れた日に












僕は3号館の屋上で他のYGS一年生たちと一緒に











ギターを弾いて遊んでいた。












階段から屋上に出る部分がサンテラスのようになっていて、












当時の僕ら一年生は、良くそこでギターを弾いた。












一つ上の上出(現・曽谷)さんや遠藤さんたちと同じ代に












内山さんという人がいた。











彼はポケットのベース担当だったのだが
(後に新海くん、関口くんのベティスミスのベースも担当する)、












時々屋上に現れ僕ら1年と遊んでくれた。














「先輩〜、ギター教えてくださいよ〜」











当時、僕は先輩を見つけると、誰彼構わずそう言っていた。












「よし」と言って











彼はいきなり3号館の屋上のコンクリートタイルの上に直に座って











カポタストをギターの7フレット目にセットしてから












おもむろに弾きだした。「こんな曲はどう…」












「あ、それ、Here Comes The Sun ですね












それの弾き方、是非、教えてください」










「いいよ〜」












「手首の返しがポイントだね。」












一緒に聴いていた新海くんが












「エンディングのとこが











ポケットのコーヒーカップと似てますね」
(違う!コーヒーカップがHere Comes The Sun に似ているのだ!)












内山さんはへたくそな僕に丁寧に教えてくれた











「そうじゃないね、こうだよ」












一緒に教えてもらった新海くんは、












その場ですぐ、Here Comes The Sunの弾き方をマスターしたが、












僕がちゃんと弾けるようになったのは、












その後数ヶ月たったあとだった。


Here Comes The Sun
田代さんの師匠の演奏(指で弾いてますが…)









おしまい







セブンティーン









1979年入学












YGSで植松くんの世代












のひとつ下の代になると












僕が4年生ときの1年生なので












さすがに接触が少なくあまり記憶がない












覚えているのは島野くんの奥さんになった大谷さんや













藤野くんや森くん












その他数人しか思い出せない












その中に












ひとり、木崎くんという男が印象に残っている


木崎01












彼は横須賀出身で












出身高校が追浜高校といい












僕の高校の隣の高校で












かなり交流があり













知り合いも重なっていたりした











僕が中学の時に好きだった女の子が











好きだった男が











木崎くんの高校のサークルの先輩だったりした(なんじゃそりゃ…)












これは神大卒業後の話だが












僕の最初の就職先の












ひとつ後輩の女の子が











木崎くんの高校時代のひとつ先輩にあたり











1982か83年頃に












その女の子と木崎くんと3人で












横浜スタジアムに












ジェイムス・テイラーとJ・D・サウザーのコンサートを











一緒に観に行った











彼とは4年の夏合宿












共通のレパートリーである












「シャボン玉」という歌を一緒に歌った


木崎02











卒業して2年経った年のYGSの定例コンサートを












僕は観に行ったのだが、












木崎くんは自分のバンドを率いて












南佳孝のサウスオブボーダーという曲を演っていた












最後の曲でオリジナルの「セブンティーン」という曲を彼は歌った











♪セブンティーン…まだ若い…♪











という歌なのだが…、












とても良い歌で












今も耳に残っている











終わり





梶山くん



梶山くんは

梶山02









石川くんと前田くんの三人で










NGBBというグループを組んでいて










ギターやフラットマンドリンなど










いろいろな楽器を担当していた












黙っていると、かなりイケメンなのだが

梶山01












口を開くとベッタベタの関西弁で










しかも酔うと(酔わなくても)放送禁止用語(オ☀コ)などを連発する男だった










町島くんと結構仲良しで、よく一緒に遊んでいた











焼き肉屋でいつもビビンバを食べるせいか










「ビビンバ梶山」と呼ばれていた











僕らが3年になり執行部になる時











いやがる彼を説得し










鈴木(現・片桐)くんと一緒に











無理無理マネージャーを引き受けてもらった











…………











彼は楽器以外でも、とても器用で












自動車部の友人に











廃車同然の軽の車を譲ってもらって













奇麗に塗装しなおして、調整し











ナンバー登録をして












乗り回していた。











このステップバンはけっこうイケてる車で











僕も時々乗せてもらったりした。













たまたま、そのステップバンを塗装する現場に居合わせたが

ステップバン












新聞紙できちんとマスキングし











実に見事に塗装するのを見て、とっても感心したものだった












おしまい



六角橋 ピンクの夜 005(完結編)






S脇達は












荷物は置いていけ…と言われ












最低限の小銭や定期券だけ持って店を出た












N宮さんは「30分で戻って来いよ〜!」と言った












店を出る直前N岸が振り返って見ると












N宮さんのボックスシートでは












既に「延長サービスモード」に入っていて…












暗がりの中、流れている大音量のディスコ調の曲にあわせて












座席の上に立った













スケスケネグリジェのお姉さんが












N宮さんの顔のメガネのすぐ前で












腰を振ってダンスをしていた
(表現に問題があり、すみません)











N岸は「あ、あんな事もするんだ…」と思った













二人は店を出ると白楽駅まで走った
(何故、そこまで急ぐ?)


白楽駅01










駅の階段を駆けおりホームに着くと











ちょうど緑色の東横線上り、各駅停車が出るところだった

芋虫電車











ダッシュで駆け込むと電車は走り出した
(駆け込み乗車はお止めください)












しばらく二人は無言だったが













S脇が口を開いた












「しっかし…俺ら、何でこんな事になったんだ?」











「…………」
確かに、いったい何をやってるんだろう…とN岸も思ったが、











さっき店で見た、N宮さんのボックスシートの光景がN岸の頭に渦巻いていた。













「Say野いるかなぁ」今度はN岸が言った












「…わからん」とS脇が言った。












電車を降りると大倉山駅からまたSay野のアパートまで走った


大倉山商店街










S脇は「N岸ぃ!早くしろ!」と












走りながら振り返って叫んだ。












N岸は基本的に根性はないので途中でペースダウンした。













ゼイゼイ言いながらN岸が「S脇ぃ、待ってくれぇ」弱々しく言った。












息を切らしながら二人はやっとSay野のアパートに着いた












S野の部屋には電気が灯ついている。











Say野はいる!












「N岸、おまえノックしろ」












「お、俺かよ」とN岸。












こういうときはS脇の方が根性がない。












ドンドン!












「おい、Say野いるかー!」












「ほーい、誰〜?」
部屋の中からS野の声がした。












「俺だー。N岸だー!」












「あいてるぞー。勝手に入れー」












N岸がドアを開けると












部屋の中が見える












こたつに座っているSay野の背中が見えた












テレビを見ながら…












彼はタオルで濡れた長い黒髪を拭いていた
(当時は髪が長かった)











N岸が先に部屋に入り、












S脇がその背後に隠れるようにして部屋に入った












Say野は振り向きながら












「どうした……ん!」と言い












N岸の背後にS脇がいるのに気付き












もう一度少し大きな声で「どうした!S脇まで」と言った












N岸は同じバンドのHo川がこのアパートの2階にいるので













ちょくちょくSay野の部屋にも訪れた











しかしS脇がSay野の部屋に来る事はめったにない












まして『N岸とS脇が二人で』という組み合わせで訪れることはまずない











S脇は「よお!Say野」と右手をあげ挨拶した。











Say野は「よお!Say野じゃない、どうした二人一緒で」












Say野はタオルで頭を拭きながら
「今、風呂屋から帰ってきたところだ」と言い、(あぶなかった)













「まあ、座れ」と、こたつに座るように目配せした。












N岸が「いや、時間がない…、












せ、Say野、何も聞かずに金を貸してくれ」と 立ったまま言った












Say野は目をまるくして「なんだ、どうしたんだ」












いくらSay野でも突然二人が訪ねて来たこの状況で












何も聞かずに金を貸す事はあり得ない












彼は言った












「だいたい自宅から通ってるN岸が、アパート暮らしの俺に金を貸せっていうはおかしいだろ」












ごもっともだ












「理由を話して見ろ」











二人は理由を話したら余計に貸してくれない…気がしたが、













仕方なく二人は上着を脱がずに腰をおろして、顛末を話し始めた












「N宮さんがね…」
(N宮さんのせいかよ!)













Say野は黙って聞いていたが、事情を聞き終えると口を開いた













「お前たち、ピンキャバの金を借るためだけに
わざわざ俺ん家まで白楽から来たってわけか?」












呆れ顔である。












「…そういうわけだ」












「その、延長ってのは金を借りてまで、しなきゃならないものなのか?」












ご意見ごもっともである













「うーむ。……だが、N宮さんが待ってるから、頼むから貸してくれ」













「で、いくらいるんだ」












N岸がサービス料金を説明した













「3000円コース、5000円コース、8000円コースがあってな、値段でサービスが違うんだ…」












…馬鹿である












Say野はしぶしぶ貸してくれた











「Say野、一緒に行くか」












「俺はいい。」と彼は言う。
(そうだ、君はそんなチンケなキャバレーに行かなくても、数年後には、「札幌・すすきの」の近くに住めるのだから…)











S脇は「Say野、頼むから、この事はみんなに黙っていてくれ」と頼んだ。











(いくらオシャベリでないSay野でも、それは無理な相談だ。)












Say野の部屋を出るとまた、大倉山駅まで二人は走った

大倉山駅












そして、また各駅停車に乗って白楽に向かう。











金が借りれたのは良いが、借りた金は返さなければならないのだ。












少し上機嫌のN岸に比べ












S脇は少し落ち込んでいた











「どうしたS脇?」N岸が言った。











「今月は金がないのに、金なんか借りちまった。返さなきゃなんない…











…それにSay野が言うように、












延長ってのは金を借りてまで、しなきゃならないものなのだろうか?」(今更、悩むな)











S脇の頭の中は虚無感でいっぱいになった。











するとN岸が言った












「でもな、さっき店を出た時に見たが…












N宮さんは、顔のすぐ前で腰振りダンスしてもらってたぞ…」













「そ、それはホントか?」うなだれていたS脇は急に顔をあげた











虚無感に苛まれていたS脇の頭に中は一気に『妄想』でいっぱいになった












そして、ネグリジェお姉さんの太ももや、胸の谷間が脳裏で回りだした











白楽駅につくと、また二人はダッシュした。












19歳と20歳のS脇とN岸は












『金借りてまでピンキャバに行った事』を











Say野に翌日、学校でみんなにばらされる事も考えず













頭の中の妄想で鼻血直前状態になりながら











夜の六角橋商店街の緩やかな坂を駆け上るのだった












終わり
(ここで終わりかよ)
















六角橋 ピンクの夜 004



S脇は言った














「N宮さん、延長はしないはずだったじゃないすかぁ」














N岸も、横でそうだ、そうだ…と言うように頷いた。














「延長しちゃったんだから、しょうがねぇだろ!















おまいらも、すりゃいいだろう」とN宮さん。
















N岸が「俺ら、延長する金ないんですよ。」と言うと

















N宮さんはメガネを指で押し上げながら
















「金がないなら帰れ!」とキッパリと言った
















『誘っといてそりゃないだろう…なんて冷たい先輩なんだ』…と

















S脇とN岸は思った。
















「N宮さん貸してもらえませんか?」と
N岸が食い下がる
















すると、後ろのボックスシートから
N宮さん担当のホステスのお姉さんが
















N宮さんの服を引っ張った












「何もめてんのよ〜?話し合いはまだ終わんないの〜?」と声をかけてきた

















するとN宮さんは彼女に「今すぐ終わるから…」と言って

















S脇達に向かって「よし!わかった」と言った

















『…おお!か、金、貸してくれるんだ!…』と思いS脇とN岸は顔を見合わせた
















しかし、N宮さんは続けて言った
















「おまいらに貸す金はない!…が、しかし俺はここで待っててやるから…
















おまいら今からSay野のとこへ行って金借りて来い!」

















「え?!」


















S脇は自分の耳を疑った『な、何じゃそりゃ』

















「い、今から…ですか?」N岸が言った。

















Say野は大倉山のアパートに住んでいる

















そのアパートの二階にはHo川が住んでいて

















Say野の部屋は一階だった

















確かにSay野なら、金を持っているかも知れない…

















ある意味、的を得ている
(しかし何故、彼は金があったんだろう)

















「そうだ。今からだ。大倉山ならすぐ戻って来れる」とN宮さん。


















「Say野は部屋に居ないかもしれません」とS脇。


















「いや、きっといる」

















「金、貸してくれないかも…」とN岸

















「い ーや、奴なら必ず貸してくれる」

















N宮さんはいったい何を根拠に
そんなに確信を満ちた口調で言うのだろうか。
















S脇とN岸が「どうする…?」と躊躇していると















「よし!決まった!俺が店に話してやる!」と言うと

















N宮さんはキャバレーの店長らしき人に掛け合いに言ってしまった

















ちょっと待って…と言いたかったが

















先輩には逆らえないのはYGSの掟

















N宮さんはすぐ戻って来て



















「よし!OKだぞ!


















俺が人質になっててやるからダッシュで行って来い!」と言った


















『何が人質だ…』とS脇は思った。
















続く…





六角橋 ピンクの夜 003




ピンクキャバレーの店内は












ディスコ調の曲が大音量で流れ












薄暗い中をミラーボールの光がぐるぐる回っていた












3人は前金でポッキリ料金を払うと












奥の隣り合わせのボックスシートにバラバラに案内された












S脇は3人一緒に座るものと思っていたので












急に心細くなった












右隣を見ると












やはり普段より落ち着きをなくしたN宮さんの顔が












ちらっと見えた












店に入る直前にS脇とN岸は、












N宮さんから「おまいら、こういう店はな…












『延長なし』と書いてあっても、必ず『延長しろ!』と言ってくる…












でも、絶対断るんだぞ!! 1時間で引き上げるからな!」
と強く言われていた。












ボックスシートでS脇はどきどきしながら待っていた












すると暗がりから、えらく薄着のお姉さん(おばさん?)が












「いらっしゃ〜い」と言ってS脇の隣にお尻をぶつけるようにして座った












香水の匂いがプンとした












ホステスのお姉さんの顔は暗くてよく見えなかったが…












えらく厚化粧なのはわかった












「あら〜大学生なの〜?神大〜?」とお姉さんは聞いた












S脇は渡されたオシボリで顔を拭きながら
「そ、そうです」と答えた











お姉さんは水割りを2杯作って、ひとつS脇に渡し













「じゃ、乾杯」と言った












お姉さんはさらにS脇にお尻を押し付けて来た












ネグリジェ見たいな服の胸元から












その奥の胸の谷間がミラーボールの光の中で見え












S脇の心臓はドッキンドッキンと鳴った












彼女は更に、身体をぴったりくっ付けながら













S脇の耳元で












「ねぇぇ〜ん延長しな〜い?」と言った












S脇は「ええ!?」と驚いた












店に入ってまだ10分も経っていない












「外の看板には追加や延長なしって書いてあるんですけど…」S脇は抗議するように言った












「バカねぇ…延長すると楽しいわよ、とっても…ウフフ」












「…で、いくらかかるんですか?」とS脇は一応聞いてみた











「ええっとねぇ、3000円コース、5000円コース、8000円コースがあってね、値段でサービスが違うの」とお姉さんは言った












S脇は、延長したくてもそんな金はない…と思った











「延長しなくても1時間は居ていいんですか」と言うと











「いいけど…でも、つまんないわよ」












そう言って今までぴったりくっ付けていた身体を











今度は10cm位離して座り直した













とても分かりやすい











どうやら、両隣でも、そんな折衝が繰り広げられているようで













左隣のN岸がボックスシートから立ち上がり











「おい、S脇どうすんだよ」と小声で話かけてきた















右隣のN宮さんのボックスシートは、












なんだか和やかに話している











S脇は「ちょっと相談します」と言って席を立った












すると同じようにN岸も席を立って通路にでできた












二人は何故か妙に盛り上がってるN宮さんのシートの











背後から彼に声をかけた











小さな声で「N宮さん、ご相談が…」












「何だ!」N宮さんは何だか嫌そうに席を立って通路に出てきた












後ろからN宮さんの席のホステスが












「相談なら早くしてちょうだいね!」と言った












3人は店のフロアの隅で話した












S脇は言った













「N宮さん、もう、延長しろって言われてるんすけど…」












N宮さんは、指でメガネを押し上げながら、












「おお、延長か?俺は延長したぞ。おまいらもしたけりゃ延長していいぞ!」












「げ!まじっすか?」












S脇とN岸は顔を見合わせ、絶句した












続く…






六角橋 ピンクの夜 002





毎日通る六角橋商店街である。









サークルが終わって帰る夕方には商店街の看板にも電気がともる。











例のピンクキャバレーにもネオンが光った。

ピンキャバ02(写真はイメージです)








「8時まで、おひとり様2000円ポッキリ、延長料金一切なし!」と書かれていた。










S脇 I夫は「2000円ポッキリ、延長料金なしかぁ…」と呟いた。










………………………………











その店の前を少し気にかかりながら












何回か通りすぎた後の或る日の夕方











いつものように、











324教室でそれぞれギターの練習をしていたメンバー達に












マネージャーのHo川が











「じゃあ、みなさん帰りますよ〜」と声をかけ












長い鉄の鎖をジャラジャラ言わせながら











メンバーみんなのギターケースを










教室の一番うしろのスチームストーブのパイプに











ぐるぐる巻きにして施錠した。











そして、いつものように大学の副門を出て白楽駅に向けて












みんなゾロゾロと歩き出した










大学周辺の斉藤分町のあたりのアパートに住んでいる










1年生のFuk本くんや、Isi 川Sei一郎くんは











大学副門を出ると











「失礼しま〜す!」と丁寧に挨拶をし帰っていった










………………………………











S脇は2年生になってから、Naga田さんやMz口くんとも良く酒を飲むようになり











サークルの中でも急速に人気者になりつつあった。










当時のYGSは軟弱音楽サークルにもかかわらず











先輩後輩のけじめが体育会のように厳しく、











先輩の言う事は後輩は絶対聞かなければならない…












という風潮があった(のような気がする)












そのかわり先輩は後輩の面倒をよく見てくれた(ような気がする)











………………………………











白楽方面に歩いて向かうメンバーの数は結構多く、











少ない時でも十数人は必ずいた。












その日は4年生のN宮さんも一緒だった












N宮さんがN岸に向かって言った











「おい、N岸、最近、六角橋商店街にピンキャバが出来たな!」












「…はい、なんかピンクのネオンがついてましたねー。」とN岸。












そのやり取りを聞いてS脇は反応した。「そ、そうですね。」











「S脇!おまえ今日はバイトか?!」











この頃のS脇は時々、渋谷の「イベリア」という喫茶店でバイトしていた










「N宮さん、今日はバイトはいってないです。」











もう少しで六角橋交差点にさしかかるという場所あたりで、











N宮さんは「よしS脇!鳥作いくぞ!」と言った












S脇はふたつ返事で「わかりましたぁー」と言った。











鳥作はYGSの行きつけの大衆居酒屋で











新歓コンパや学祭の打ち上げなどでも










よく利用する店だった










S脇達数人は、六角橋交差点から白楽駅方面に向かい












ちょうど例のピンクキャバレーの











「2000円ポッキリ」のネオンの手前を直角に左に曲がり











鳥作に向かった










鳥作にはS脇、N宮さんの他にHo川、












そして白楽駅近くにすんでいるS木(現K桐)も付いて来た












鳥作につくとN岸が











「N宮さん、この間の麻雀大会は残念でしたねェ」と言った。












「その話はもう、すんなっちゅうの!」









N宮さんがすこし怒った口調で言った。










そのYGS麻雀大会とは










N宮さんが、ルール設定や雀荘の手配を











全てN宮さん自身でして、かなり熱をいれて企画したものだった。











企画は成功で多くのメンバーが参加し











盛り上がったのではあるが…












N宮さんは自分は、まず間違いなく5位以内で入賞する…と目論んで











白楽にあるピーコックで5位までの賞品を











すべて自分の欲しいモノを選んで











どう転んでも賞品は手にはいるだろうと












意気込んで挑んだのだが、まったく目論み通りにいかず











ちょっと不機嫌であった











1年生のS木(現K桐)がN宮さんに「まぁ飲んでください」と酒をついだ。












鳥作でしばらく呑んで…1時間は経ったかもしれない













いつもより早い時間に切り上げ











店をでた











通常はN宮さんとS脇は元住吉で呑み直しとなるのだが











この日は違った











鳥作を出てすぐにN宮さんが言った












「S脇!おまえピンキャバに行ったことあるか?!」











S脇は「ありませ〜ん!」即答した。











「よし!行ってみるか?」













S脇はドッキリした。












しかしその目には「ハートマーク」が出ていた。












Ho川とS木(現K桐)は明日の朝、早く授業があるので帰るという











N岸も「親が心配するので、帰ります」という











N岸はおぼっちゃまでも無いくせに












時折、小学生のような言い訳を言うのだ












S脇はN宮さんと2人でピンキャバに繰り出すのは











あまりに心細いので












「N岸〜!つきあえよ。」とN岸の腕を掴んだ












「いや、俺、金無いし〜!」とN岸












金が無いのはS脇も一緒だった











するとN宮さんが












「よし!2000円のうち、おまいらの半分は俺が出してやる。」という。












気前がいいんだかよくわからない…












しかしN宮さんのメガネの奥の目には












星飛雄馬のような炎が燃えていた











「ほ、本気だ!」












それを見たS脇とN岸は「はい。お伴します」と言った












そして、例の「8時まで2000円ポッキリ」の看板の店の












2階への階段を3人で昇った











階段は安普請でギシギシ音をたてたが、昇って行くと












中は薄暗く、そしてミラーボールの妖しい光が












揺れていた












「は〜い3名様ご入店〜!」大きな声が響いた











続く…







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